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第6回「氷が溶ける贅沢な時間」
「いらっしゃいぃ!」、「きたよ〜」、「何にする?」、「つねきちスペシャルゥ〜!!!」、「また出た…」。ゴールデン街劇場2Fにある『恒城』(つねきち)に呑みに行ったときのマスター恒さんと私との、いつもの会話。
『恒城』には、ふとしたときに呑みに行きたくなるような「特別な魅力」がある。
バーテンダー歴10年の恒さんは、2005年の4月に念願だった店をG街にオープンさせた。いうまでもなくお酒のプロだ。その恒さんに、メニューに載っているカクテルだけを作ってもらうのはつまらんってことで『恒城』で最初に頼むお酒は、おまかせの「恒城スペシャル」と決めている。これは私が勝手にそう呼んでいるだけなので恒さんのオリジナルかどうかは定かではないが、その日の体調や気分によって作り分けてくれるのがウレシイ。私のためにいつも違うカクテルを出してくれるという優越感に浸れちゃうのだ。
『恒城』には、もうひとつ楽しみがある。それは「こおり」だ。少なくとも私の知っている店は氷を冷凍庫に入れているが、『恒城』の場合は氷専用のストッカーで保存している。さすが、のこだわり。その違いは歴然で、冷凍庫で保存している氷はアイスピックで割るとエッジが鋭角になったりまるくなったりして少しカッコワルイのだが、ストッカーだと冷凍庫より低温で保存されて氷が固いため直角に割れて美しいキューブ型になる。「恒城スペシャル」を飲み干したら2杯目からは大抵ラムをロックで。『恒城』でロックを頼むとアイスピックで削ったまるい氷(通称まる氷とか地球アイスとか言うらしい)で出してくれる。このまる氷は四角い氷のように角がないため解けにくく、お酒が薄まりにくい。まさにロックで呑むための氷だ。この氷でロックを出してくれる店はG街ではおそらく『恒城』だけだろう。恒さんの手で四角かった氷が少しずつ削られてまんまるになってロックグラスにすっぽり納まり、ラムの甘い香りの中で光に反射しながら少しづつ溶けていく。そのさまを眺めているのがたまらなく好きで、その贅沢な時間が恋しくなると発作的に『恒城』に呑みに行きたくなるのです。
恒城 ゴールデン街劇場2F
tel:03-3203-1886
open/19:00〜翌7:00
日曜休

第5回「G街で知り合いと一緒に呑む条件」
基本的にひとり呑みが好きな私ではありますが、G街に行ってみたいという人がいればとりあえずは連れて行く。が、なぜかとても疲れるのです。その原因を考えた。呑みに行く→店で顔見知りに会えば話をしたい→話をしたいが他の人と話ができず、ひとりでポツンとしている連れを見ているのは忍びない→気を使って話題を振る→疲れる。という具合。だからこんな人となら一緒に呑みに行ってもいいですよ、という条件を考えた。以下の通りである。1.ひとりで放っておいても平気な人。2.私の事なんかそっちのけで楽しめる人。3.何度か連れて行ったらひとりでも呑みに行ける人。たったこれだけ。簡単なようだけどなかなかそういう人はいなかった。でもですね、ひとりだけ居ましたよ。恐ろしいくらいにハマった人が……。 高校時代から仲の良かったKは、卒業と同時にフランスに留学、そのまま就職して年に何回かは仕事で日本に帰国していた。彼女を最初にG街に連れて行ったのは忘れもしない2004年のゴールデンウィーク。最初は『音吉』でまったり呑んで、次は常連客のように『WHO』ではしゃぎまくり、最後に『Evi』でクールダウンしていたのだが、誕生日だというおめでたい男が呑みにやって来て、ぱんつを脱ぎ捨てあられもない姿で椅子の上に仁王立ち。おそるおそる隣を見ると案の定、その姿にK大興奮のご様子。この一件ですっかりG街の魅力に取り憑かれてしまった彼女は、頼もしいことに翌日ひとりで呑みに出かけて行き、とうとう朝まで帰ってこなかった。その年の夏はG街に呑みに行くためにわざわざ帰国。それ以降も帰ってくる度に足しげく通っておりました。そして現在、本帰国した彼女は東京に着くや否や意気揚々とG街に乗り込んで行き、深夜過ぎに私と合流。すでにグデングデンに酔っぱらっていた私などお構いなしに久しぶりのG街を満喫しておりました。その態度たるやあまりにも堂に入っていたため、そこにいた常連客の誰よりも常連らしく見え、最近呑みに行くと正体を失ってみっともない姿をさらしている私は嫉妬の嵐。初心に戻ってもう少しお行儀よく呑もうと心に誓ったのでした。ひとりでもフラフラとG街に出かけて行ってその場の雰囲気にすんなり馴染んでしまうKは、私とG街で呑む条件を完璧にクリアした素晴らしき友人です。

第4回「サヨナラ、福ちゃん」
ほら、逢っているときは何とも思わねえけど、別れた後で妙に気になるひとがいますね。そういう女でしたよ、あれは…。と、寅さんは言っておられた。生きていれば出逢いもあるし別れもある。それはG街も例外ではない。通い始めて約1年半、出逢いばかりであった私にも別れのときがやってきた。『WHO』と、その姉妹店『Happy』のマスター、ジョニ−のバンド「歌麿呂」のメンバーでもあった福ちゃんはバンドの脱退と共にG街からも去ることを決めていた。福ちゃんとは『WHO』で初めて逢った。ガタイがデカくてスキンヘッド、おまけに無愛想。なんとなくとっつきにくい人というのが第一印象。何度か店で会ったりライブに遊びに行ったりしているうちに話す機会も増え、お互いジュリー好きということもあり、意気投合したというワケではないが一緒に呑んでて気が楽だった福ちゃん。慣れてくると、まったりとした話し方をするのどかな人で、セクハラすることを除けばそりゃあもうイイヤツだった。見つめ合いながらウィンクしたり投げキッスしたりして、どっちが先に視線を外らすかという遊びを人知れずしたり、意味もなくフランス語を連発しあったり(自称フランス育ちとか)とどうでもいいことをよくやった。だから会えなくなると知ったときは寂しかったな。『Happy』で行われた福ちゃんのサヨナラDJイベント「普通のオッサンに戻ります」では、太っ腹(?)なジョニ−が客にテキーラを気前よく振るまい、振るまわれた客はこれまた気前よく飲み干した。福ちゃんは福ちゃんでセクハラし放題。おぼろげな記憶の中で私もされたような気がするが、まあこれが最後だ。ジュリーもいっぱいかけてくれたことだし許してやろう。……私、産まれも育ちもフランスはパリです。ノートルダム大聖堂で産湯を使い、性は福、名は麿呂。ひと呼んで歌麿呂の福と発します。と言ったかどうかは知らないが、とにかく福ちゃんはG街から去っていった。この日、昼近くまで飲んで駅まで行く道すがら、見ず知らずの酔っぱらいが言っていた言葉が耳について離れない。「考えるな、感じろ」。SALUT、福ちゃん!
Rock&Soul Bar Happy
ゴールデン街劇場ビル3F
tel:03-3208-3171
open:19:00〜翌7:00 無休
http://gate.ruru.ne.jp/shinjyuku/happy/

第3回「キスの安売り、または寂しい女の中毒症状」
G街の住人は、例えば翌日仕事に行かなければならない平日であっても朝まで呑む、なんて事は日常茶飯事だ。ちょっと一杯…なんて思った時点で負けなのだ。まるでどこかで聞いたことがある歌のよう。ハタと気づくととうの昔に終電は終わり、ぐるぐるまわる脳みそでタクシーで帰るか始発電車が動き出すまで呑んで過ごすか、究極の選択を強いられる。それが週末だったり、誰かの祝い事であったり、店の記念日だったり、オープニングパーティなんかがあった日には、何を呑んだのか忘れるくらいに酒はちゃんぽんされ、記憶は飛び、しまいには明日のことなんてどうでもよくなってしまう。そんな楽しいイベントが、まるでフランス料理のフルコースのように続いた。…G街でいったい何人の女の子とキスしたかな? 思い出せないほどしている、はずだ。だって酔っぱらってるんですもの。ふとそんな事を考えたのは、とあるバーのパーティで女の子にキスをせがまれたからである。上目使いの潤んだ瞳で見つめられ、年上とは思えないほど可愛らしく甘えた声で「ねぇ、チュ〜していい?」なんて聞かれたのだが、返事をする前に唇を奪われた。そういえば朝方ゴキゲンな音楽が爆音で流れ、店中がいい感じに酔っぱらってハイテンションで踊り狂っていたとき、何人かの女の子に羽交い締めにされて舌まで入れられたこともあったな。でも私も酔っぱらっている。気にとめることもない。それどころか幸せな気分になって病みつきになっちゃうのだ。その日はそれが引き金となって店にいた女の子全員とキスするハメになってしまった。まさにキスの安売りといった感じ。女同士でキスする子は大抵ひとりで呑みに来ている。いつだったかG街で出逢った気風のいい姉さんが、ろれつのまわらない口調で叫んでいた。「G街にひとりで呑みに来るような女はねぇ、……何があってもタダじゃ転ばないんだから!」。そのくせ寂しがり屋でひどく臆病なんである。女同士でキスするのはリスクがないから。気を許した人とならなおさらだ。キスを安売りするのは、プライドが高くてひとりで何でもできちゃう、でも本当は強がりで寂しがり屋な女の中毒症状なのかもしれない。

第2回「救い難い男の酔っぱらい失恋歌」
ひとりで呑みに行くのが好きだ。誰かと約束して呑むなんて煩わしいことはしたくない。相手に気を遣って話をするなんてまっぴらごめん。そんなエネルギー残ってないわ。今日はひとりで静かに酔いたいの。ほっといて! ...そんなとき私の足は自然と『音吉』(おときち)へ向かう。マスターのTOMさんはそこのところちゃんと心得ている。お酒を出すと適当に放っておいてくれて適当に遊んでくれるのがよい。心休まるTOMさんのその佇まいがよい。疲れたときにイイコイイコしてくれるところがよい。紺碧の空のようなブラックライトの照明と揺らめく蝋燭の炎で心静かに酔えるのもよい。トイレのドアを逆開きにしたことで用を足しやすくなったこともよい。よいことずくめだ。その日も疲労困憊して『音吉』のドアを開けた。手前奥のカウンター席が空いていたので、そこに座って焼酎の水割りをたのむ。はぁ、今日もひと心地つけたなぁと思っていたら、グデングデンに酔っぱらった男がしきりに女の子を口説いていた。私だったら無視するところだが、その女の子は大人だった。立派だった。嫌な顔ひとつせず、嫌な思いをさせず、楽しみながら男をあしらっていた。粘りに粘って携帯番号を交換したことで満足したのか男は店を出て行った。やっと静かに呑むことができる。ため息がでた。しばらくして明るくなりはじめた通りを背後の窓からなにげなく見ると、さっき出て行った男が舞い戻ってきていて店の前の地べたにごろんと寝ころんだり、膝を抱えたりして女の子が出てくるのを待っているではないか。救いようのないアホウである。外からは薄暗い店の中が見えないから男は気づいていないだろうが、中から外は丸見えなんだよ。私たちは「バカだな〜」とか「帰れ!」とか言って毒づきながら男を肴に呑んでいた。女の子はさすがに辟易したのだろう。支払いを済ませて店のドアを開け放つと男には目もくれずにさっさと朝のG街に消えて行った。アホウな男は前のめりに倒れて即身成仏。やわらかな陽射しを体いっぱいに浴びて溶けてなくなりそうだった。そのときTOMさんがかけていた曲は鎌倉研氏の「酔いどれぼっち」。酔っぱらい男のやるせない歌である。
Bar 音吉 花園一番街
tel:03-3202-0182
open:20:00〜翌6:00
日曜休

第1回「G街バンドにはまぶしすぎたスポットライト」
最近ゴールデン街に建った真新しいビルに「ゴールデン街劇場」なるものができた。そこで、私がG街に通い始めた当初からお世話になっている『Evi』(えび)という店が、4月某日、ミュージシャンを招いてライブイベントを行うという情報をキャッチ。おまけにミュージシャンではない(笑)『Evi』のマスター、小峯氏までもがこの日のために「スリー・コード(仮名)」というスペシャルバンドを組んで歌うというので遊びに行ってみた。
出演者はいずれもG街にゆかりのある人たちばかりで、客席にも見知った顔がチラホラ。SHOGUNからウルフルズ、SMAPまで、『Evi』では盛りあがると必ずといっていいほどかけているお馴染みの曲を熱唱&プレイする「スリー・コード(仮名)」。さぞかしいつものような楽しげな雰囲気になるのかと思いきや、店とはあきらかに異なる広い空間で(『Evi』はスタンディングも含め20人くらい入れば鮨詰め状態)、眩しいほどのスポットライトを浴びた小峯氏が(店の照明は薄暗い提灯の明かりと回転しないミラーボール)、G街仲間とはいえプロのミュージシャンの演奏をバックに(普段はもちろんCDで)、当然ながら本物のマイクで歌を歌う(店では焼酎ボトルがマイク代わり)という普段の『Evi』とはまったく違った状況に、小峯氏もお客さんもちょっと気恥ずかしそうで、ステージと客席の間には、もどかしいくらいに縮まらない、奇妙な距離があったように思う。が、しかしそれもまた一興。その収まりの悪いなんともゆる〜い感じが『Evi』っぽさでもあるのだ。(断っておくが演奏は勿論、歌も実にヨカッタのです)
そしてこのへんてこな空気を一蹴したのが、この日のラストを飾ったアズミケイコ氏。気だるげでハスキーなパワーボイス、有無を言わせず聴かせる歌は、客席を一気に巻き込んだ。彼女の声には人の心を静かに狂わせる何かがあって、ライブの最中、会場の外へ出たい衝動を抑えるのにとっても苦労しました。ちなみに小峯氏後日談。「やっと気持ち良く酒呑んで酔っ払えるよ〜」。主催者は各方面に気を遣って大変だった模様。
Evi
新宿ゴールデン街G2通り
tel:03-3202-3315
open:20:00〜翌5:00
日曜休
by
黒い乙女
プロフィール/ ひとりで過ごす時間をこよなく愛する辰年獅子座28歳。年の瀬せまる2003年12月、ひょんなことからゴールデン街に迷い込み、その餌食となる。 |