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ワールド雑波 /トルコ編 【イスタンブールで会いましょう】 漂流コーナー

夫の仕事の都合でフランスからこの町に越してきて早1年半あまり。トルコ人の日本語のうまさとか、意外な発見の数々をレポート!

第1回「街で飛び交う怪しい日本語」
第2回「シビれるシソ」
第3回「世渡り上手」
第4回「〜びっくりしたなあ、メエ」

第5回「伝統芸術キリム」

ここまで食べ物の話ばかりが続いたので、ここらへんで文化的話題にふってみたい。といっても、筆者が勝手にトルコではまったものの話である。
長い歴史の中で様々な民族移動のあったトルコについて文化的に語ろうとすればきりがないのであるが、数ある伝統芸術の中でもキリムは素晴らしい、と思うのである。
絨毯とは違って織り手が自分のために織り、日常生活に密着した平織りのキリムは、50年から100年前の生活の遺産である。それは穀類を貯蔵する袋であったり、赤ちゃんのゆりかごだったり、遊牧民の家具や嫁入り道具だったりする。
染色はすべて植物染料でその発色の鮮やかさはちょっとやそっとでは衰えない。使われているモチーフや染料で産地が特定できるのだそうだが、今や機械化と技術の継承者不足の問題で、ますますその希少価値が増している。

年代や産地を特定するには、何百枚、何線枚と見て鍛えた目に頼るしかない。
機械織りの劣悪品を短期間風雨にさらしていかにも年代物のように見せた偽物と本物を区別するにもこの目が必要である。ということは、まだせいぜい30枚くらいしか見ていない私はまだまだカモか。
たまたま家のそばに自分の足で買い付けてきた本物だけを置いた店があって、このお店を切り盛りするエンギンさん(写真上)が色々と教えてくれた。細いからだのどこにそんなエネルギーがあるのかと思えるほど活動的で、時々アナトリア地方や、ウズベキスタン(キリム以外にも「スザニ(needle work)」と呼ばれる刺繍がある)まで足を伸ばして買付けてくるという彼女の話は聞き飽きることがない。筆舌に尽くせないので今回は写真を多用してみたい。それでも実際の色は、自分の目でみて「出会う」ものではあるのだが。

お店の連絡先は
HAZAL KILIM-HALI
Mecidiye Koprusu Sk.N°9
ORTAKOY ISTANBUL
TEL: +90-212-227-4071
と、ここまで書いて以前某ガイドブックで警告していた「絨毯押し売りババア」の話を思い出した。件のガイドブックおよび友人の証言によれば、それは「日本人観光客とみれば自分の息の掛かった絨毯屋に半ば強制的につれていき、脅しかと思えるほどしつこく買い物をすすめる」日本人女性だったそうだが、私は決してそのような怪しいものではありません。念のため。

第4回「〜びっくりしたなあ、メエ」

食べ物といえば、イラクサにやられた後は羊肉にうなされた。誤解のないように言っておくが本場のケバブはパリの下町で売ってるような下品で粗雑な味とはほど遠く、種類も豊富で美味である。うなされたのは、肉になる前の姿をあまりにも強烈なシチュエーションで目撃してしまったためである。ご存知の通りイスラム教暦のハイライトには、断食のラマダン月と、羊祭りがある。旧約聖書中、アブラハムが息子を生贄に捧げる試練を甘んじて受けようとした敬虔さに報いて、神が息子の命を免除し、羊の生贄を捧げるよう命じる場面があるが、後者はこれにちなんで、富める者が貧しい者に食べ物を施す習慣となって残っている。
ある朝目覚めてみると、うちの隣の空き地が真っ白になっていた。が、これは折から激しく降り続く雪ではなく、テントのようだった。外にでてみるとテントの内側からは獣のにおいと「メエー」という鳴き声が漏れている。これはサーカスでもでるのだろうか、それにしては地味なテントだなどと思っていたら、大間違い。政教分離国家のトルコは宗教的に寛大なので、これが羊祭りの始まりであることに、すぐに気づかなかったのだ。
人々は羊や牛を買いに来て、その場で捌いてもらう。町中での屠殺は今では禁じられて、各市町村にはそれ専用のスペースが設けられているが、まさか隣の空き地がこれに指定されていたとは。おびただしい数の羊、雄羊、ヤギ達の売られる様子を目撃した私の頭には、1週間ばかり小学校で習った「ドナドナ」のメロディーが流れ続けた。4日間の祭りが終わった後の空き地は、今度は石灰で真っ白になっていた。
これでしばらくにわかベジタリアンに転向するかも知れないが、野菜を豊富に使うトルコ料理では食べ物に不自由することはない。

第3回「世渡り上手」

うちにはおフランス育ちの家猫がいる。トルコに来たばかりの時は、やれシェバ(注:高級キャットフードです)を出せだの、冬が寒すぎるだのと文句たらたらだったが、いまではすっかり腹も出てなんだかトルコっぽい(失礼)雰囲気になってきた。
ところが、イスタンブールの町を根城とする猫たちは、うちのアマちゃん猫とは比べ物にならないほど敏捷で賢い。日本の野良猫は、やたらしっぽが短かかったり、ローマやパリなどヨーロッパにいた猫も飢えた目をして人相ならぬ猫相が悪かった。これに比べるとイスタンブールの猫たちは、それこそクリスタルのグラスでシェバを食していてもおかしくないほど高貴な感じである。(なぜか野良犬たちは美しくない。)
そして彼らは左右を見て道を渡るので、悲しい事故はめったに目にしない。動体視力も優れているらしく、車のスピードが早すぎるとみるや、素早く後ずさりもできる、バックギアつきである。
彼らのエサは住民がたっぷり与えているらしいのだが、このエサのことを何とトルコ語で「まんまmama」という。すごい、そのまんまやんけ。言葉の壁に阻まれ、うろうろしている私よりもあの三食昼寝付きらしい猫たちのほうがずっと世渡り上手なのである。

第2回「シビれるシソ」

フランスから直接トルコへ移り住んだため、フランスとの距離感でトルコを見ることに慣れてしまった私。食べ物もメンタリティーも日本との共通点が多いなーと感じはじめていたタイミングが悪かった。こちらに来て間もない頃、近くの青空市場で「シソ」を見かけた。「わー。さすが寿司好きのトルコ人はシソも使うのか」と早合点し、一束買おうとしたら「2つ買ったら3つ目おまけ」戦略に押し切られ、小サイズの袋一杯に詰められた「シソ」を持ち帰った。
ところが、これをいざ洗って刻もうとした時である。全身に電流が走った。普段、感情表現が地味な私でもうめき声をあげるほど強烈だった。そして、よくよく眺めると敵は「いらくさ」であることが判明した。あとで人に話したら、同情されるよりも、「スープとか、いろんなレシピがあるのに知らなかったの」とばかにされてしまった(調理にはゴム手袋が必要であろう)。

前回はほぼ完璧な発音で怪しい日本語を繰り出すトルコ人たちを紹介したが、反対に日本人もトルコ語が上手かというと、上手な人は確かにすごく上手らしい。でも、無情にも上達のスピードは、やはり人それぞれ違うのである。
この「いらくさショック」のやりとりを見ていた門番のおじさんが、私に早口で何か言った。トルコ超初心者の私は「庭」、「たくさん」しか聞き取れず、あとはおじさんが自分と私を交互に指さすジェスチャーをもとに、解釈を迫られた。よく考えたら「それ好きなの?じゃ、うちの庭にたくさん生えてるから今度もってきてあげるよ」という意味だったのでは?と震撼していたら見事大当たりで、次の週、外出先から戻ると玄関に大量のいらくさが届けられていたのには、まいった。次の週から一念発起し、トルコ語集中講座に通い始めるきっかけとなった事件であった。

第1回「街で飛び交う怪しい日本語」

こちらに来てすぐ気づくことがある。トルコ人は日本語がうまい。
しかも語源が同じウラル・アルタイ語族だという事実を裏付けるように、半端なうまさではない。
例えば、グランバザールでは、「おかあさん!」というカタコトでも、イントネーションが完ぺきなので、真面目な日本のお母さんはつい、反射神経で振り返ってしまうという光景をよく目にする。
彼らは、語彙の「アップデート」にも余念が無く、つい最近までは「オッハー」と、声がかかったのだが、長く日本を離れて「アップデート」されていない私は最初これが「おはよう」を意味することに気づかなかった。しばらくしてやっと反応した私は、「え?日本人ですか?みえないねー」と言われてしまった。(いったいナニ人に見えるのだろうか、としばらく自問した。)
またある日、スパイスマーケットに近い魚屋さんの前を通ると、「コンニチワ」というカタコト。これは普通。でも続いて「ピチピチでんがな!」との声がとんだのには驚いた。でも、こちらを指さしていても、これって主語は魚だろうな。実は三十路も半ばを過ぎた身には、「ピチピチ」はきびしい形容詞だ。その後も何度か、この魚屋の前を通る機会があったが、同じおじさんから同じセリフが漏れるたびにウケてしまう私。おじさんは得意そうだ。
でも、観光で訪れる皆さん、あまり調子に乗って変な日本語教えるのはどうかな。子供に突然「さらばじゃ」なんて言われるとびっくりします。でもその子、せっかく言ったのに、爆笑されるばかりで挨拶を返してもらえず、ちょっとがっかりしていたのがかわいい。


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